※この記事は2015年6月のカナダGPの時に書いたものです
2015年のマクラーレン・ホンダ
低い信頼性、足りない馬力、悪い燃費
これが2015年のホンダパワーユニットの現状です。
シーズン前半はメルセデスより100馬力以上足りないと噂されていました。
現在のF1のパワーユニットで最も高度な技術であるエネルギー回生システム。ここが現在ホンダが大きく遅れを取っている点です。
あと1年遅かったらもうちょっとはマシなものを作れていたかもしれませんね。
燃費の厳しいカナダGPでは、燃費をセーブする走りで他のチームより圧倒的に遅いペースに。アロンソは、燃料切れでゴールできなくてもいいから燃費走行はしたくないというようなことを無線で言っていました。
ベルギーGPやイタリアGPでは回生エネルギー量が足りず、ERSによるアシストが最後までもたない、すなわちホンダパワーユニットは高速サーキットでは途中で息切れしてしまう、そんなことも顕著になりました。F1の予選は基本的に持てる力を最後まで出し尽くしてようやくコンマ何秒か縮められますから、途中で息切れしたらそりゃ上位に来れるわけがないですね。
エネルギー回生システム含めたパワーユニット全体の性能はメルセデスやフェラーリよりも遥かに劣っています。開発に失敗したと言われているルノーのパワーユニットですら昨年レッドブルは3回優勝をしています。
信頼性の低さも問題です。
この原因は熱によるものだということが明かされています。その対策をホンダはずっとしてきて、シーズン後半ではなんとか1レース走りきれるくらいにはなっています。
シーズン前半の信頼性の低さによりデータが取れず、マクラーレンがマシンの開発を進められず、悪循環を生んでいます。
パワーユニットの信頼性が低いルノーとホンダは、シーズン中盤でもうパワーユニット交換によるペナルティを受けています。
1シーズンで4機、今年に限りホンダは5機まではペナルティなしですが、イタリアGPの時点でマクラーレンは8機目投入です。
パワー不足はほとんどのサーキットで不利になります。
ダウンフォースをつけるとドラッグが増えてストレートスピードが遅くなるのですが、メルセデスのような強力なパワーユニットであれば、ダウンフォースを多少つけてもストレートで遅くなることはないわけです。
ストレートが遅くてもそんなに不利にならないのはモナコ、ハンガリー、シンガポールくらいです。
どんなにコーナーが速かろうが、前のマシンを抜けなければ順位を上げられませんし、逆にストレートでDRSを使われた時に簡単にオーバーテイクされることになります。
これは2014年のレッドブルやフェラーリも経験しています。フォース・インディアが抜けない・・・ということが多くありました。
現に、メルセデスパワーユニットを使っているチームは軒並み上位に来ます。それだけパワーユニットの優位は大きいということです。なにしろレースでは燃費を気にせず走れますし、ストレートは速いのでオーバーテイクもしやすいし、逆にオーバーテイクされにくい。
圧倒的なパワー、驚異的な信頼性、凄まじい燃費の良さ、これがメルセデスパワーユニットです。
▼メルセデスのパワーユニット
ホンダの開発失敗を事実上認めているドライバー2人
日本GPにて
アロンソ「(ザウバーに抜かれて)恥ずかしい」「GP2エンジン(程度しかパワーがない)」「コーナーでどんなに攻めてもストレートで抜かれる」
シーズン前半の頃、ホンダはシーズン後半には表彰台というようなことを言っていました。かなり強気な発言をしていたわけです。また、アロンソとバトンはこれから改善していくだろうという前向きなことを言っていました。
しかしシーズン中盤、後半に入ってから、アロンソとバトンのコメントはかなりネガティブなものになってきています。
ハンガリーでアロンソが5位フィニッシュしても、それでもアロンソはあまり喜んでいませんでした。それはホンダPUの馬力のなさや信頼性の低さを痛感し、ハンガリーのような低速サーキットで他のチームの自滅もあって得た順位ということをアロンソはよくわかっているからです。
アロンソはフェラーリから移籍して後悔しているか?と質問を受けていました。
発言では後悔していないと言っていますが、どう考えても後悔しているでしょうね。ベッテルは移籍初年度に3勝してるんですから。
オーストラリアGPの時に解説の森脇基恭さんが、速くて信頼性が低いのと遅くて信頼性が高いだったら前者の方が良いというようなことを言っていました。
しかしホンダのパワーユニットはどちらでもない、遅くて信頼性が低い。これは開発の上では非常にやっかいです。
↓設計を大幅に変えるという報道。つまり2015年の設計に問題があったということ。
レギュレーションによる開発凍結
F1にはホモロゲーションというルールがあります。
エンジンメーカーはパワーユニットの設計等をFIAに提出した後、そこから改良を加えるには「開発トークン」を使わなければなりません。
信頼性や安全性向上の開発はトークンなしで可能ですが、性能向上にはトークンが必要。大昔のF1のように、ひっきりなしに新型エンジンを投入するということはできません。事実上の開発凍結。
つまり、最初に提出したパワーユニットが良いものであればあるほど、その後もずっと有利になってくるわけです。
メルセデス以外のチームは開発凍結を解除してほしいと強く訴えています。
ホンダは来シーズン、32トークンを使ってパワーユニットの改良・改善ができますが、フェラーリもメルセデスもルノーも同様に改良をしてくるわけで、既に改良されたパワーユニットをさらに改良できます。
そしてパワーユニットの開発が順調なメルセデスやフェラーリは、マシンの開発にも力を入れることもできるわけで、様々な問題を抱えているマクラーレンが2016年にいきなりそんなレベルまでジャンプアップするかと言われると無理な話です。
さらに、設計に問題があった場合、多くのパーツを変更しなければならず、32トークンで足りるのか?という話にもなってきます。
ですので現在の位置を考えると来年も優勝できないだろうと予想されます。
表彰台とか毎回ポイントとか、そういうのはまだ現実的な目標かもしれません。
フェラーリの2014年をよく考えてみてほしいのですが、少なくともトップ10には毎回入ってました。アロンソはリタイアしたイタリアと日本以外はポイントを全て獲得、ハンガリーでは2位表彰台でした。
その位置からの2015年の成績ですから、今のマクラーレンの位置とは比較になりません。
個人的には、マクラーレン・ホンダのマシンが今のV6ターボ+ERS時代にワールドチャンピオンを取ることはないだろうと予想しています。2017年にレギュレーションが大きく変わりますので、そこで上手く行けば望みはあるかもしれません。
アロンソがマクラーレン・ホンダで再びワールドチャンピオンになれる可能性は、たとえホンダがパワーユニットを改善したとしても非常に低いのが現実です。
ミシュラン等がタイヤサプライヤーに復活してタイヤ戦争が始まるなら話は別なんですけどね。
2015年のマクラーレン・ホンダが遅い理由
- コンパクトなパワーユニットというコンセプトがそもそもの間違い?
- 燃費が悪く、レースで燃費走行が必要。(メルセデスPU勢はほとんど必要なし)
- プレシーズンテストやシーズン前半の信頼性不足でマクラーレンのマシン開発が進まない
- 高速サーキットではMGU-Kの回生エネルギーが最後までもたない(息切れする)
▼ルノー、フェラーリ、メルセデス、ホンダのパワーユニットの設計比較。
ホンダのパワーユニットは、サイズゼロと呼ばれる非常にコンパクトなレイアウトをしています。メルセデスやフェラーリのパワーユニットと比べても小型です。
小型なのでマシンの後方部分を絞ることができ、空力面で優位に立とうとする狙いがあります。マクラーレンとホンダの狙いはそこでした。
しかし、コンパクトなレイアウトゆえに冷却が難しく、熱の悪影響がモーターやバッテリーに出てしまっています。
また、パワーユニットのサイズにあわせてマクラーレンのシャシー後方部分が絞られていることで、さらに冷却効率が低くなり、余計に熱の問題を生んでいます。
そのため、15年シーズン序盤でホンダはエンジンやモーターの出力を落として熱の影響を抑えようとしており、これが馬力不足につながっていました。
単純にMGU-KやMGU-Hといった回生システムが他のチームより劣っているというのもあります。
F1のハイブリッドシステムは乗用車とは比較にならないほど高度な技術であり、企業の高い技術力が必要です。
発熱の問題をクリアしつつ、回生システムのマネージメントと熱エネルギー回生システムの性能向上をする必要があります。
さらに、F1はテストが制限されていて、新しいパワーユニットを作ったからそれをすぐにマクラーレンのマシンに乗せてテストというのはほとんどできません。シーズン中のテストやプレシーズンテストが重要になってきます。
3年かけてパワーユニットを研究開発した他のエンジンサプライヤーに対し、F1を離れていたホンダは1年半程度しか開発期間がなく、それでいて自らハードルを上げる挑戦的な技術を選び、それを十分な形で実現できなかったことが現在のような遅さにつながっているのです。
マクラーレンがホンダを選んだ理由と誤算
「なぜマクラーレンはホンダを選んだの?」と思う人も多いでしょう。
理由は、カスタマーパワーユニットではワークスチームには勝てないからです。
メルセデスは自分たち以外のメルセデスパワーユニットユーザーが脅威になってきたら、最新スペックのものを提供しないという手段を取ることができます。
また、エンジンマッピングや使用可能なパワーモードなども制限すれば、同じパワーユニットを使っていたとしても、ワークスチームのメルセデスAMGだけ優位に立てます。
これはフェラーリも同じです。
そのパワーユニットが提供される第一のチームでなければチャンピオンはありえない。
パワーユニット開発に関してもマクラーレンが口を出せる立場にいたい。
だからマクラーレンはメルセデスではなくホンダと契約しました。
しかし2013年にホンダと契約し、2014年シーズンがスタートした時に、マクラーレンとホンダは焦ったはずです。メルセデスのパワーユニットの馬力が想像以上だと。
そして2014年末のテストでホンダのパワーユニットが想像以上に悪いことをマクラーレンは知ってしまいます。
単に遅いというだけに留まらない
まず、マクラーレンにとっては1980年以来の大惨事です。
いくら将来を見据えているといっても、マクラーレンがこんな酷かったことは1980年まで遡らなくてはなりません。
F1の歴史に残るわけです。ホンダのパワーユニットを使ったせいで中堅チームにすら勝てないシーズンだったと。
そしてスポンサーがつかなくなります。なぜ遅いのにそんな高い広告料が必要なのか?と言われてしまう。マクラーレンのマシンを見れば、スポンサーのロゴが非常に少ないことが一目瞭然です。
スポンサーがいなければどうなるのか、アロンソに毎年払う40億円、バトンに払う10億円が負担になってきます。単純に会社経営という部分で苦しくなる。
また、チャンピオンシップが下位で終われば、支給される金額もこれまでより大幅に減ります。
そしてアロンソが遅いマシンに乗るということも問題です。
スペインGPの集客が減ります。
「長い目で」と言います。
確かに80年代のホンダも最初から速いわけではなかった。
ですがあの頃とはF1のレギュレーションもF1を取り巻く開発競争も全然違う。そもそもホンダがパワーユニットを供給しているのは弱小チームではなくトップチームのマクラーレン。
マクラーレンというかつての常勝チームがそれを指を咥えて見ていられる時間はそう長くはないはずです。