ドラッグリダクションシステム。DRS。
2010年からF1に導入されたオーバーテイクシステムです。
リアウィングを開けることでダウンフォースを減らして、ストレートの最高速を10km/hほど稼げるもの。
レースでは前の車の1秒以内なら指定区間でのみ使えるというものです。
DRSはコース上での追い抜きが増やせる一方で、そもそも1秒以内に近づけるということは後ろの車のほうが速いわけなので、前の車が後ろの車を押さえ込める機会を奪っているという問題があります。
アロンソ等何人かのドライバーはDRSを批判しています。
DRSがなくともスリップストリームだけでのオーバーテイクが見られることもあり、本当にDRSが必要なのかは疑問が残るところです。
そもそもなぜDRSが導入されたのかというと、現代のF1があまりにもダウンフォースが大きいため、前の車の後ろに接近した時に後方乱気流でダウンフォースを失い、思うように走れず、オーバーテイクがしづらいというのがありました。
2000年代中盤~後半はそれが顕著で、コース上での追い抜きがあまり見られず、ピットストップで前に出るという事が多かったです。
これをFIAが問題視し、できるだけコース上でバトルしているのを見られるようにとDRSを導入しました。
GTカーや下位カテゴリのフォーミュラの場合、F1ほどダウンフォースはないので後ろにくっついたまま走れるのですが、F1はあらゆるカテゴリの中でも特にダウンフォースレベルが高いですから後方乱気流の問題があります。
その典型例が2010年のアブダビグランプリでしょう。
チャンピオンに王手をかけたフェルナンド・アロンソでしたが、ピット戦略ミスにより、ルノーのペトロフの後ろに出てしまいます。ペトロフとアロンソはタイム差で言えば1周1秒くらい違います。
にもかかわらず、アロンソはペトロフを最後までオーバーテイクできず、チャンピオンを失いました。
日本の鈴鹿サーキットもフォーミュラカーにはオーバーテイクが難しいと言われています。
DRS圏内だと前の車の後方乱気流で、コーナーの立ち上がりでダウンフォースを失い、トラクションが悪くなって加速が鈍くなります。これによりストレートの直前で引き離されて結局追い抜けない。
一方で、かつてアロンソが130Rでオーバーテイクを見せたこともありましたが、鈴鹿ではオーバーテイクがめったに見られないのが現状です。
オーバーテイクしづらいと言われるサーキットの場合、前の車より1周1秒以上速くないと抜けません。
サーキットによっては1秒以上速くても抜けないこともあります。
ライバルチームだとコンマ数秒の差ですから、DRSなしではタイヤの履歴によほどの差がないと抜けません。
2016年の最終戦。ハミルトンがロズベルグに追いかけられる展開でしたが、ロズベルグはDRSを使っても全くハミルトンを抜けませんでした。
2018年の開幕戦、明らかにハミルトンの方が速かったですが、一度前に出たベッテルを抜くことは不可能でした。
かつてF1は、オーバーテイクをしやすくするため、レギュレーションでダウンフォースを減らすということを試しました。
しかし、フォーミュラカーはダウンフォースがあったほうが速いですから、どのチームも知恵を絞ってダウンフォースを稼ごうとしてきます。
結局オーバーテイクのしやすさはそこまで変わりませんでした。
2017年に再びダウンフォースが増大するデザインに変更されました。
結局のところ、オーバーテイクはコースのレイアウトによります。
フェラーリが幾度となく、メルセデスの「ボッタス壁作戦」の餌食になったように、DRSがあっても抜けない時は抜けません。
そもそも、タイム差が近い車の場合、後ろにいるだけで各コーナーでタイムを失います。だいたい2秒以内だと影響を受けてコーナリング性能が落ちると言われています。
このため、DRSがある今のF1でも、抜けないとわかれば距離をあけて、ピットでの逆転を狙います。
インディカーやスーパーフォーミュラはDRSの代わりに「オーバーテイクシステム」を使用しています。
ボタンを押した時だけエンジンの出力が上がるというもの。
良さそうに見えますが、スーパーフォーミュラはここ数年オーバーテイクがしづらいという問題に悩まされていました。
最近、タイヤの2コンパウンド性を導入したことでオーバーテイクは増えましたが、それでも抜きづらいサーキットだとやっぱりオーバーテイクは難しい、というか無理。
おそらくドライバーからすると、前にいる方はDRSはやめてくれと思うでしょうし、後ろにいる方は前の車を全然オーバーテイクできない状況だとDRSがほしいと思うでしょう。
下の動画は2014年のバーレーンGPのバトルです。
オンボードはロズベルグのもので、新しいタイヤのロズベルグが古いタイヤのハミルトンを追いかけています。
タイヤの差は歴然で、明らかにロズベルグの方が有利です。
このオンボードを見るとはっきりわかりますが、ダウンフォースが減った2014年のF1マシンでも前の車にはなかなか近づけません。たとえタイヤで有利だとしても。
2014 Bahrain Grand Prix: Race Highlights - YouTube
DRSを使っても抜けない時は抜けない
結局、ハミルトンがこのレースを勝利しました。
DRSがあり、タイヤも新しいロズベルグ相手に。
DRSは単にオーバーテイクを生み出す目的以外に、バトルのしづらいF1でバトルの機会を与えるという目的もあるのです。
個人的には「オーバーテイクしづらいサーキットだけにDRSを設置する」でいいのではないかと思います。
カナダ、モンツァ、スパ、ホッケンハイム、アゼルバイジャン、中国、バーレーン、イギリス、メキシコ、ブラジルには不要。
「オーバーテイクが全然ない←→DRSは人工的なオーバーテイク」
という押し問答になりますが、
GTカーやカート、F3、フォーミュラEとはダウンフォースの量が違うという点は考慮しなければなりません。
F1で前の車を抜くには1周1秒以上速くなければ難しい。
コンマ1秒を争うF1で1周1秒。
オーバーテイクがなければないで不満が出ますし、簡単にオーバーテイクできる仕組みがあればそれはそれで不満がでる。
▼F1の下位カテゴリのF2です。F2にもDRSがあります。激しいバトルが見られます。